このたび、第62回日本小児股関節研究会を2023年6月22日と23日の両日に千葉で開催させて頂くことになりました。伝統ある本研究会の主催、大変光栄に存じます。
本研究会は、単なる学術発表の場にとどまらず、全国各地で日々悩みながら孤軍奮闘する小児股関節医の年に一度の交流の場として、大切な役割を果たしてきました。小児股関節の診療は、そのほとんどが良性疾患であるにも関わらず、コンスタントに好成績をあげることが容易でありません。この研究会は、どうやって治療してよいかわからないときには相談の場、自身の工夫が実って治療がうまくいったときには成果を認めてもらうご褒美の場、治療がうまくいかずつらい思いをしたときには癒しの場、同志が同じ地域にいない寂しさからやめてしまいたくなったときには心を支えてもらう場として、日本の小児股関節診療を支えてきました。私自身、折れそうになった心をたびたび支えてもらったのがこの研究会です。人は同じ悩みを抱える同志が集まると、支え合い、慰め合い、励まし合って、自身の力を格段に高めることができるように思います。そしてそれが股関節疾患を患うこどもたちの幸せに結びついていきます。
今回の研究会のテーマは「ひとりひとりに心をこめて」です。何の変哲もない先天性股関節脱臼の装具治療においても、症例によって症状や経過が異なり、画一的な標準治療でほんとうによいのか、多くの専門医が日々悩んでいると思います。ペルテス病、大腿骨頭すべり症、麻痺性股関節脱臼なども同じです。いくら経験を重ねても悩みは尽きず、予想通りの経過をとってくれない症例が少なくありません。同じ病名でも、一例一例みな違うんです。今回はそれを語り合いたいと思います。
主題は「治療に難渋した症例」と題して、敢えて症例報告を歓迎するスタイルをとりました。シンポジウムは手術成績不良例が後を絶たない先天性股関節脱臼放置例の問題を解決するため「発育性股関節形成不全(完全脱臼例)の手術―どこで成否が分かれるのか―」と題して、この手術を熟知した先生方にご発表をお願いしました。パネルディスカッション1では、乳児股関節検診について改めて議論したいと思います。行政や地域の医療機関との連携をどのように構築していけばよいのか、演者の先生方からご意見を賜りたいと思います。パネルディスカッション2では、いまだに担当医によって治療方針が異なる新生児期の装具治療について議論したいと思います。特に新生児期に装具を適用するかどうか、装具を全例に適用するのか、について、演者の先生方からご意見を賜りたいと思います。
本研究会の最後を締めくくる特別講演は、シンポジウムで取り上げた発育性股関節形成不全完全脱臼例の手術を極め、その普及に努めてこられた三谷茂教授にお願いしました。三谷先生は第48回本研究会を主催した折に、まだ駆け出しの小児整形外科医だった私を特別講演にご指名下さいました。若かった私はそれを受けて大胆にも「私の考える小児股関節診療のスタンダード 一歩も譲らない先人たちとさまよえる若手医師」というタイトルで生意気な講演をいたしましたが、大きく出てしまった故に第一線から引くことができない立場となり、ここまで奮闘を重ねてきた次第です。
無事現地開催できれば2019年長崎以来の集まりになると思います。それを心から楽しみにしております。そして、この研究会が本来の役割を果たし、股関節の治療を必要とする全国のこどもたちの幸せにつながっていくことを心から祈っております。